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2017.11.30

仮想通貨③

日本での会計基準設定の取り組み

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1.はじめに
平成29年5月のニュースでは、日本をはじめとした各国の仮想通貨に対する会計基準の取り組み状況を取り上げました。今回はそのうち、日本におけるその後の動向に焦点を当てたいと思います。
ASBJ(企業会計基準委員会、日本の会計基準設定主体)は当初、平成29年9月を目途に公開草案を発表する予定でした。しかしその議論は中々進まず、公開草案発表の目標は平成29年12月まで延期されている状態です。
そこで今回は、ASBJの審議資料をもとに、現時点での仮想通貨の主要な論点における議論の経過状況を纏めておきたいと思います。


2.総論
ASBJの審議資料では、(ア)仮想通貨の主要な論点におけるASBJの提案内容、(イ)それに対して出された意見、そして論点によっては、(ウ)当該意見を踏まえASBJが変更した提案内容が書かれています。主要な論点は下記の通りです。


① 仮想通貨の売却損益の認識時点
② 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識
③ 仮想通貨の期末評価時の会計処理


以下では、それぞれの論点について見ていきます。


3.各論
① 仮想通貨の売却損益の認識時点
論点:仮想通貨を売却する際、いつの時点で売却損益を計上するか。

ASBJの提案
(1) 売買契約の成立時点に売却損益を認識する。

提案の理由
・各企業が売買契約締結という、共通する判断基準で会計処理できる。
・契約成立後は、通常、売手である仮想通貨交換業者は売却した仮想通貨の価格変動リスク等に実質的に晒されていない。


提案に対する意見
・企業間の相対取引の場合、売買契約成立時点と実際の売買価格の決定時点が異なる場合がある。


意見を踏まえたASBJの対応
 特になし


② 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の認識
論点:預託者から預かった仮想通貨について、貸借対照表に計上するか否か。また、計上する場合には、期末時点でどのような評価をするか。

ASBJの提案
(1) 仮想通貨交換業者の貸借対照表に資産及び同額の負債として計上する。


(2) 期末においては、下記の通り、自己の固有財産である仮想通貨と同様の評価で、かつ資産に対応する同額の負債を計上する。
・活発な市場が存在する場合:時価に基づく価額で評価
・活発な市場が存在しない場合:取得原価評価


提案の理由
・暗号鍵等の保管を通じて仮想通貨を管理・処分する権利を有しているため、自己の固有財産である仮想通貨と違いはない。
・仮想通貨交換業者の倒産時に、顧客の取戻権が否認される。


提案に対する意見
・預かり仮想通貨のデータが経理システムと連動しておらず、現状において円滑な経理処理が困難である。
・金融機関が顧客から有価証券を預かった場合のケース(オフバランス)と平仄を合わせるべきではないか。


意見を踏まえたASBJの対応
 特になし


③ 仮想通貨の期末評価時の会計処理
論点1:自己の保有する仮想通貨について、期末時点でどのように評価するか。

ASBJの提案
(1)活発な市場のある仮想通貨
・時価に基づく価額で評価する。
・帳簿価額との差額は損益処理する。


(2)活発な市場の無い仮想通貨
・取得原価で評価する。
・処分見込価額<取得原価の場合には、減損処理を実施する。


提案の理由
・ 活発な市場のある仮想通貨
価格変動により売却利益を得る目的で仮想通貨を保有する場合には、当該会計処理が当てはまる。
・ 活発な市場の無い仮想通貨
直ちに売却できる市場が無い以上、長期目的で保有することになる。また、客観的な時価の把握も困難であるので、時価評価は有用な評価方法とは言えない。


提案に対する意見
・活発な市場が存在する場合でも、売買目的以外で保有する場合には、期末時点の評価差額はその他の包括利益で処理することが望ましい。


意見を踏まえたASBJの対応
 特になし


論点2:「活発な市場」であるかどうかの判断基準としては、どのようなものがあるか

ASBJの提案
(1)取引所・販売所で取引されていても、実際の売買事例が極めて少ないケースや、実際の売買事例が無く仮想通貨の市場価額が存在しないケースにおいては、活発な市場は存在しないものと考える。


(2)上記の、実際の売買事例の多寡の判断は、以下の観点から行う。
・複数の仮想通貨交換業者が取引所・販売所で取り扱うことにより、客観的に信頼性のある価額として時価が把握できるか。
・当該時価による売却・換金等の実現可能性があるか。
提案の理由
・取引所を有していても、価格の信頼性と実現可能性を確保できるだけの市場の厚みが無い場合には、活発な市場が存在するとは言えない。


提案に対する意見
・複数の取引所・販売所で取扱われているか否かだけの判断基準は不十分。
・仮に複数の取引所・販売所で取り扱われていても、売買・換金の実現可能性の判断の余地が大きい。具体的な規定を設けたほうが望ましい。


意見を踏まえたASBJの対応
・複数の取引所・販売所で取り扱われているか否かは、活発な市場の要件にしない。
・売買・換金の実現可能性が十分な流動性を有しているかの観点から判断を行う。


論点3:活発な市場が存在する場合、時価(市場価額)として用いる金額は何か


ASBJの提案
(1)最も取引が活発に行われている取引所・販売所における取引価額とする。
(2)仮想通貨交換業者は独立性の観点から、自己の取引所・販売所における価格を市場価格として自己の仮想通貨の時価評価に使用することはできない。


提案の理由
・金融商品会計に関する実務指針における規定を参考とした。


提案に対する意見
・実務上、各取引所・販売所における取引量の適時・網羅的な把握は困難。
・仮想通貨を売買する際は、売買価格の有利さや手数料の安さで取引所を決定している。取引量の活発さで決定しているわけではない。
・仮想通貨交換業者が独立性を失わない正当な理由がある場合には、自己の取引所・販売所において成立する価格を市場価格として自己の仮想通貨の時価評価に使用することを許容して欲しい。


意見を踏まえたASBJの対応
・最も取引が活発な取引所・販売所複数の取引所・販売所の取引価格に替えて、自己の取引実績の最も大きい取引所・販売所における取引価格を市場価格として使用することとする。

・仮想通貨交換業者においては、保有する仮想通貨を自己の取引所で取引している場合、当該自己の取引所全体の取引量に対する自己の取引量の割合の重要性が乏しく仮想通貨の取引価格の形成に重要な影響を与えていないと判断されるときは、当該自己の取引所の取引価格を市場価格とすることができることとした。



4.おわりに
今回のニュースでは、仮想通貨の会計上の取扱いの討議資料について取り上げました。12月にASBJから公開草案が発表された際には、今回の記事も参考にしながら、仮想通貨の会計基準への理解を深めて頂けたらと思います。


 なお、今回の解説も概略的な内容を紹介する目的で作成されたものですので、専門家としてのアドバイスは含まれておりません。個別に専門家からのアドバイスを受けることなく、本情報を基に判断し行動されることのないようお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。


(参考資料)
ASBJ ホームページ
https://www.asb.or.jp/jp/project/proceedings.html
平成29年11月29日アクセス